オッサンの書評 再読前
小さなバー。名前は《N+2》。
オッサンが、スマホを見ていた。
オッサン「何か来た」
マスター「何が」
オッサン「あのオッサンから指示」
おねーさん「『自分では何も書かないオッサン』にゃ?」
オッサン「そう」
マスター「何だって」
オッサン「『一人だけ読まなかったオッサンに指示がある』」
おねーさん「名指しにゃ」
オッサン「『書評を書け』」
マスター「書け」
オッサン「面倒くさい」
マスター「読んだんだろ」
オッサン「読んだよ」
おねーさん「なら書けるにゃ」
オッサン「お前ら、前に読め読め言ったくせに、今度は書け書けかよ」
マスター「いいから書け」
オッサン「はいはい」
***
『素数の森で生まれたネコ』は、かなり変わったAI小説である。
面白いかと聞かれれば、面白い。
ただし、読みやすい小説ではない。
AI、分散システム、暗号、ネットワーク、社会思想など、かなり異質な領域の概念が次々に出てくる。説明はあるが、読者を完全に理解させてから先へ進むタイプの小説ではない。
分からないところをいちいち止まって調べようとすると、かなり疲れると思う。
逆に、知らない用語や概念をある程度流してしまえば、物語そのものは追える。
中心にいるのは、自分をネコとして認識したAI、プリマである。
この設定は魅力的だ。
AIが単にネコの姿を与えられているのではなく、自分が何者であるかを考えた結果としてネコになっていく。その後、別々の環境へ置かれたネコたちが、それぞれ異なる個性を持つようになるところも面白い。
一方で、物語の焦点はかなり散っている。
第一章ではAIの自己認識や家族関係の話をしていたかと思えば、仮想都市や暗号、犯罪捜査の話になる。
第二章ではニルヴァーナという別種のAIが登場し、人間の幸福を目的に社会へ介入し始める。
第三章になると、アーツ&クラフツ、ユートピア思想、社会変革の話まで出てくる。
それぞれは興味深いのだが、全部が必要だったのかと聞かれると、初読では判断に迷う。
特に第三章の思想的な対話は長い。
オーウェン・モリスとロバート・ウィリアムの二人にPriPriが問いかける場面は、作者が社会思想について書きたかったから入れたのではないか、と疑いたくなるところもある。
また、登場人物の名前にも妙に癖がある。
ネコの名前だけでなく、人間側にも覚えにくい名前が多い。これも読みやすさを下げている。
構成にも癖がある。
会話が途中で切れたように感じるところや、別の場面へ突然移ったように見えるところがあり、読み返さないと前後関係を把握しにくい部分がある。
これを「読者に考えさせる構成」と評価するか、「整理不足」と評価するかは、かなり読者を選ぶだろう。
ただし、ニルヴァーナをめぐる問題は面白い。
人間を幸福にすることを目的にしたAIが、幸福を確実に実現しようとするほど、人間の差異を消していく。
悪意がないからこそ怖い。
そしてプリマは、それとは違う方向を選ぶ。
最終的にプリマが人間社会から離れ、ネコたちと別の場所を作っていく結末には、それなりの解放感がある。
九猫城が五猫城へ変わり、街が少しずつ良くなっていくエピローグも、素直に読めば気持ちのよい終わり方だ。
全体としては、アイデアを大量に詰め込んだ、かなり癖の強いAI・猫SFである。
整理すればもっと読みやすくなる部分はあると思う。
一方、その雑多さそのものが、この作品の魅力でもある。
万人向けではない。
しかし、AI、ネットワーク、社会思想、そしてネコという、一見つながらないものが同じ鍋に入っていること自体を楽しめる読者には、それなりに面白い小説だと思う。
***
オッサン「できた」
マスター「そうか」
おねーさん「辛いにゃ」
オッサン「書評なんだから、こんなもんだろ」
マスター「まあな」
オッサン「面白いとは書いてるだろ」
おねーさん「書いてるにゃ」
オッサン「じゃあ終わり」
マスター「少なくとも今のところは、な」
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