ファンタジー編 第五話 勇者たちの帰還
オッサン「じゃあ帰る」
王「……」
宮廷魔術師「……」
オッサン「何?」
宮廷魔術師「帰還の術は、伝わっておりません」
沈黙した。
オッサン「は?」
宮廷魔術師「異世界より勇者を召喚する術は伝わっております。しかし、元の世界へ送り返す術については、記録がありません」
オッサン「困るよ」
王「すまぬ」
オッサン「すまぬじゃないよ。家族いるんだよ」
王「……」
マスター「俺たちにも元の生活がある」
おねーさん「勝手に呼んで、帰せませんでは困るにゃ」
宮廷魔術師「申し訳ありません」
オッサン「召喚する前に確認しなかったの?」
宮廷魔術師「古文書には、異世界より勇者を召喚する術と」
オッサン「また古文書か」
マスター「見せてもらおう」
宮廷魔術師「何をです?」
マスター「召喚の術だ」
***
三人と宮廷魔術師は、召喚の間へ移動した。
床には、三人がこの世界に現れたときの魔法陣が残っていた。
オッサン「これ?」
宮廷魔術師「はい」
マスターは魔法陣を見た。
おねーさんも横から覗き込んだ。
オッサン「どういう仕組み?」
宮廷魔術師「異世界より、条件に適合する勇者を召喚します」
オッサン「それは何が起きるかだろ」
宮廷魔術師「……はい?」
オッサン「この魔法陣が、何をしてるのかを聞いてる」
宮廷魔術師「異世界から勇者を――」
マスター「だから、それは結果だ」
宮廷魔術師「……」
おねーさん「術式を読めないにゃ?」
宮廷魔術師「読めます。しかし、非常に古い形式です」
マスター「なら読めるところから読め」
宮廷魔術師は魔法陣の前にしゃがんだ。
指で術式をたどった。
宮廷魔術師「ここで対象となる世界を探索します」
オッサン「うん」
宮廷魔術師「ここで条件に適合する対象を指定」
おねーさん「勇者にゃ?」
宮廷魔術師「古文書では、そう解釈されています」
オッサン「また解釈か」
宮廷魔術師「……」
マスター「続けろ」
宮廷魔術師「ここで二つの空間を接続します」
オッサン「接続?」
宮廷魔術師「はい」
マスター「その後は」
宮廷魔術師「対象を接続先へ移動させます」
おねーさん「接続先はどっちにゃ?」
宮廷魔術師「……」
オッサン「こっち?」
宮廷魔術師は魔法陣を見た。
もう一度、最初から術式をたどった。
宮廷魔術師「……ありません」
オッサン「何が?」
宮廷魔術師「こちら側を移動先として指定する記述が」
マスター「方向はどこに書いてある」
宮廷魔術師「……方向?」
マスター「異世界からこちらへ、という方向だ」
宮廷魔術師は黙った。
おねーさん「ないにゃ?」
宮廷魔術師「……ありません」
沈黙した。
オッサン「じゃあ、それ召喚魔法じゃないじゃん」
宮廷魔術師「しかし古来より、異世界勇者召喚の術と――」
オッサン「名前はどうでもいいよ」
マスター「二つの空間を接続して、対象を移動させる術だな」
宮廷魔術師「……はい」
おねーさん「呼ぶために使ってきたから、召喚って呼んでただけにゃ」
オッサン「一方向だと思ってたのも?」
宮廷魔術師「召喚の術ですから、当然こちらへ移動させるものだと……」
マスター「名前から仕様を決めたのか」
宮廷魔術師「……」
オッサン「また名前に騙されてるじゃん」
***
宮廷魔術師は、さらに魔法陣を調べた。
宮廷魔術師「しかし、まだ問題があります」
オッサン「何?」
宮廷魔術師「元の世界を指定する方法が分かりません」
オッサン「俺たちを呼んだときは?」
宮廷魔術師「術式が条件に合う世界と対象を探索しました」
オッサン「条件って?」
宮廷魔術師「魔王を倒す力を持つ、異世界の勇者」
三人は黙った。
オッサン「よくそれで俺たちが出てきたな」
マスター「本当にな」
おねーさん「その条件の意味も怪しいにゃ」
宮廷魔術師「……」
オッサン「でも、もう一回探索したら、俺たちの世界じゃないところにつながるかもしれないってこと?」
宮廷魔術師「その可能性があります」
マスター「呼んだときの情報は残ってないのか」
宮廷魔術師「情報?」
マスター「どこと接続したかだ」
宮廷魔術師は魔法陣を見た。
そして、中央付近に手を触れた。
淡い光が浮かんだ。
宮廷魔術師「……残っています」
オッサン「あるの?」
宮廷魔術師「はい。最後に接続した世界の座標が、術式に保持されています」
マスター「なら、それを使えばいい」
宮廷魔術師「理論上は可能です」
オッサン「また理論上?」
宮廷魔術師「この方向で使った者はいません」
オッサン「方向ないんだろ?」
宮廷魔術師「……そうでした」
おねーさん「もう召喚って考えない方がいいにゃ」
宮廷魔術師「はい」
***
召喚の間に、王と大臣も来た。
魔法陣が淡く光っていた。
王「本当に帰るのか」
オッサン「帰るよ」
王「この国に残れば、望むだけの地位と財を与えるぞ」
オッサン「家族いるから」
王「そうであったな」
マスター「俺たちにも生活がある」
おねーさん「帰るにゃ」
王「そうか」
王は三人を見た。
王「勇者たちよ。そなたたちの功績は、この国で永遠に語り継ごう」
オッサン「ちゃんと書いといてよ」
王「もちろんじゃ」
オッサン「魔王は倒してないって」
王「そこは倒したことにしておけ!」
オッサン「なんでだよ!」
王「魔王討伐は成功したのじゃ!」
マスター「さっき決めたな」
おねーさん「決めたにゃ」
オッサン「そういう問題かなあ」
宮廷魔術師「勇者殿」
オッサン「何?」
宮廷魔術師「始めます」
オッサン「ああ」
マスター「頼む」
おねーさん「はいにゃ」
魔法陣の光が強くなった。
オッサン「じゃあ」
王「うむ」
オッサン「もう勝手に人を呼ばない方がいいよ」
王「……そうする」
床が光った。
***
小さなバー。
名前は《N+2》。
オッサンはカウンターの前に座っていた。
マスターはカウンターの中に立っていた。
おねーさんも、元の場所にいた。
三人は黙っていた。
オッサン「……帰った?」
マスター「たぶんな」
おねーさん「帰ったにゃ」
オッサンはスマホを取り出した。
画面を見た。
オッサン「圏外じゃない」
マスター「確認方法が現代的だな」
オッサン「日付も同じだ」
おねーさん「時間もほとんど経ってないにゃ」
オッサンは息を吐いた。
オッサン「よかった」
マスター「ああ」
しばらく誰も話さなかった。
オッサンがグラスに手を伸ばした。
そのとき、指先に小さな火が灯った。
三人は火を見た。
オッサン「……」
マスター「……」
おねーさん「……」
オッサン「使える」
マスター「店内でやるな」
オッサン「ごめん」
火を消した。
おねーさん「魔法、残ってるにゃ」
オッサン「剣も使えるかな」
マスター「店内で試すな」
オッサン「分かってるよ」
また少し沈黙した。
マスター「で」
オッサン「何?」
マスター「さっき何の話をしてた」
オッサン「ああ」
少し考えた。
オッサン「異世界転生」
おねーさん「転生じゃなかったにゃ」
オッサン「あ」
マスター「召喚だ」
オッサン「そうだった」
少し沈黙した。
オッサン「でもさ」
マスター「なんだ」
オッサン「召喚って呼ぶのも、正確じゃないよな」
マスター「また始めるのか」
おねーさん「戻ってきたにゃ」
オッサン「でさ、異世界転生ってあるだろ」
マスター「ああ」
おねーさん「あるにゃ」
オッサン「あれにさ、現代科学知識無双っていう類のもあるよな」
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