ファンタジー編 第四話 凱旋
三人は王都に戻った。
城門をくぐると、鐘が鳴った。
通りには人が集まっていた。
旗が振られ、花びらが舞った。
オッサン「なんかすごいな」
マスター「俺たちだろうな」
おねーさん「たぶんにゃ」
オッサン「まだ何も報告してないけど」
マスター「先に魔王軍が撤退したんだろ」
おねーさん「平和になったと思ってるにゃ」
オッサン「なったんじゃない?」
マスター「それをこれから確認するんだろ」
オッサン「面倒だな」
三人は王宮へ向かった。
***
謁見の間には、王、大臣、騎士団長、宮廷魔術師が待っていた。
王は三人を見ると、玉座から立ち上がった。
王「勇者たちよ! よくぞ戻った!」
オッサン「ただいま」
マスター「ああ」
おねーさん「ただいまにゃ」
王「北方より報告が届いておる! 魔王軍は全戦線で撤退を開始した!」
オッサン「早いな」
マスター「俺たちより速い」
おねーさん「寄り道しすぎたにゃ」
王「奪われた砦も放棄された! 避難していた民も故郷へ戻り始めておる!」
オッサン「良かったじゃん」
王「うむ!」
王は大きくうなずいた。
王「して――」
少し間を置いた。
王「魔王は倒したのか?」
オッサン「倒したって、どういう意味?」
王「……何?」
オッサン「何をもって魔王を倒したことにするの?」
王「魔王を倒すとは、魔王を倒すことじゃ!」
マスター「定義になってないな」
おねーさん「同じ言葉を繰り返してるだけにゃ」
王「では、魔王に勝ったのか?」
オッサン「勝ったって、どういう意味?」
王「……」
マスター「それも向こうで揉めたな」
おねーさん「勝敗条件を決めてなかったにゃ」
王「戦ったのであろう!」
オッサン「戦ってないよ」
沈黙した。
王「……戦っておらぬ?」
オッサン「うん」
王「では、魔王を殺したのか?」
オッサン「殺してないよ」
王「……」
大臣「では、魔王は生きているのですか」
オッサン「元魔王なら」
王「元?」
マスター「今は魔王じゃない」
おねーさん「魔王をやめたにゃ」
沈黙した。
王「最初から説明せよ」
***
三人は説明した。
世界の半分を提示されたこと。
その半分が何を基準とした半分なのか決まっていなかったこと。
そもそも魔王がまだ世界を所有していなかったこと。
世界征服の目的を聞いたこと。
魔族の旧領を取り戻すことと、世界全部を征服することは違うと分かったこと。
世界征服後には統治が必要だと分かったこと。
そして、魔王が侵攻をやめると決めたこと。
最後に、魔王を名乗るのもやめたこと。
王は黙って聞いていた。
大臣も黙っていた。
騎士団長も黙っていた。
宮廷魔術師も黙っていた。
説明が終わった。
長い沈黙があった。
王「……つまり」
オッサン「うん」
王「元魔王は生きておる」
オッサン「うん」
王「城にもいる」
マスター「ああ」
王「魔族を統治している」
おねーさん「そうにゃ」
王「では何が変わったのじゃ!」
オッサン「魔王じゃなくなった」
王「名前だけではないか!」
オッサン「あと侵攻をやめた」
王「そっちを先に言え!」
***
大臣が咳払いした。
大臣「陛下。整理いたしましょう」
王「頼む」
大臣「我が国が勇者殿たちを召喚した直接の理由は、魔王軍による侵攻でした」
オッサン「そうだったね」
大臣「現在、侵攻は停止しております」
マスター「ああ」
大臣「占領されていた地域からも、魔王軍は撤退しております」
おねーさん「はいにゃ」
大臣「避難していた民も戻り始めています」
王「……」
大臣「少なくとも、我が国が直面していた問題は解消されました」
オッサン「じゃあいいじゃん」
王「しかし、魔王討伐を命じたのじゃ」
オッサン「だから、魔王はいなくなったよ」
王「倒しておらぬ!」
オッサン「だから、倒すって何?」
王「……」
マスター「戻ったな」
おねーさん「戻ったにゃ」
王「やめろ」
***
宮廷魔術師が、ためらいがちに口を開いた。
宮廷魔術師「陛下」
王「なんじゃ」
宮廷魔術師「古き予言がございます」
オッサン「予言?」
宮廷魔術師「『異世界より勇者来たりて、魔王を倒し、世界に平和をもたらす』」
オッサン「ああ」
宮廷魔術師「勇者殿たちは異世界より来られました」
マスター「ああ」
宮廷魔術師「魔王はいなくなりました」
おねーさん「いなくなったにゃ」
宮廷魔術師「そして魔王軍は撤退し、戦争は終わりました」
王「では、予言は成就したということか」
宮廷魔術師「そう考えることができます」
オッサン「いや、待って」
王「今度は何じゃ」
オッサン「予言には『魔王を倒し』って書いてあるんだよね」
宮廷魔術師「はい」
オッサン「俺たち、倒してないよ」
王「またそこに戻るのか!」
オッサン「だって予言の文言だろ」
マスター「ここでは無視できないな」
おねーさん「『倒す』が何を意味するかで、予言が当たったかどうかが変わるにゃ」
宮廷魔術師「……確かに」
王「では、魔王が存在しなくなったことを『倒した』と解釈すればよい!」
オッサン「それ、今決めたよね」
王「……」
オッサン「予言した時点では、どういう意味だったの?」
宮廷魔術師「それは……」
おねーさん「予言者本人の説明は残ってないにゃ?」
宮廷魔術師「残っておりません」
マスター「なら確認できないな」
オッサン「魔王を殺すことだったかもしれない」
マスター「戦闘で敗北させることかもしれん」
おねーさん「侵攻を終わらせることかもしれないにゃ」
オッサン「魔王っていう存在をなくすことかもしれない」
宮廷魔術師「……」
マスター「どれでも結果に合わせられるな」
沈黙した。
オッサン「それ、予言としてずるくない?」
宮廷魔術師「……」
オッサン「『倒す』の意味を先に決めてないんだから、後で何か起きてから、一番都合のいい意味を選べるじゃん」
おねーさん「外れたと判定する条件が曖昧にゃ」
マスター「当たったことにはしやすいな」
王「……」
宮廷魔術師「しかし、異世界より勇者が来るという部分は当たっております」
オッサン「それ、予言が当たったんじゃなくて、あんたたちが呼んだんだろ」
沈黙した。
宮廷魔術師「……はい」
マスター「予言に合わせてな」
おねーさん「予言を読んで、異世界から勇者を召喚したにゃ」
オッサン「じゃあ、それ予言の的中実績に入れちゃ駄目だろ」
宮廷魔術師「……」
王「確かに」
オッサン「『異世界から勇者が来る』って予言を読んだ人が、『じゃあ異世界から勇者を呼ぼう』って魔法を使ったんだろ?」
宮廷魔術師「はい」
オッサン「来るじゃん」
マスター「来させたからな」
おねーさん「予測じゃなくて、実行したにゃ」
王「……」
オッサン「しかも勇者って何かも決まってなかったよね」
宮廷魔術師「……はい」
オッサン「魔王を倒すって何かも決まってない」
宮廷魔術師「……はい」
オッサン「世界に平和をもたらす、の平和も定義してないよね」
宮廷魔術師「……はい」
マスター「かなり自由度の高い予言だな」
おねーさん「何が起きても、かなり対応できそうにゃ」
オッサン「この予言した奴、すごいな」
宮廷魔術師「偉大なる大予言者です」
オッサン「逆だよ」
宮廷魔術師「……」
オッサン「何も決めてないじゃん」
マスター「異世界。勇者。倒す。平和。重要なところが全部曖昧だな」
おねーさん「後から意味を入れられるにゃ」
オッサン「これで大予言者になれるなら、俺もできるぞ」
王「例えば?」
オッサンは少し考えた。
オッサン「『やがて大いなる変化が訪れ、人々は新たな時代を迎えるであろう』」
沈黙した。
マスター「いつだ」
オッサン「言わない」
おねーさん「大いなる変化って何にゃ?」
オッサン「言わない」
マスター「新たな時代とは」
オッサン「それも言わない」
王「……」
オッサン「いつか当たるだろ」
マスター「たぶんな」
おねーさん「外す方が難しいにゃ」
宮廷魔術師「……」
オッサン「大予言者って楽だな」
宮廷魔術師「そのように言われますと……」
オッサン「いや、待て」
オッサンは急に真顔になった。
マスター「どうした」
オッサン「俺たち、なんでこの世界に呼ばれたんだっけ」
王「魔王を倒す勇者としてじゃ」
オッサン「何を根拠に?」
王「……予言じゃ」
沈黙した。
オッサンは宮廷魔術師を見た。
宮廷魔術師は目を逸らした。
オッサンは王を見た。
王も目を逸らした。
オッサン「俺たち、そんなもので異世界から呼び出されたの?」
誰も答えなかった。
マスター「そういうことになるな」
おねーさん「はいにゃ」
***
王はしばらく黙っていた。
やがて、大臣に尋ねた。
王「民は故郷へ戻っておるのだな」
大臣「はい」
王「奪われた砦も戻った」
大臣「はい」
王「魔王軍は撤退した」
大臣「はい」
王「元魔王は、今後侵攻しないと約束した」
オッサン「そう言ってた」
王「そして、魔王を名乗る者はいなくなった」
おねーさん「はいにゃ」
王は目を閉じた。
しばらく考えた。
そして三人を見た。
王「魔王討伐は成功した」
オッサン「いいの?」
王「よい!」
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