ファンタジー編 第三話 魔王討伐
三人は魔王城に着いた。
途中、いろいろあった。
魔物もいた。
盗賊もいた。
できるだけ逃げた。
逃げたら道に迷った。
逃げなくても道に迷った。
オッサンは見たことのない植物を見つけるたびに立ち止まった。
マスターは地図の間違いを見つけるたびに修正した。
おねーさんは何度も理由なく木に登った。
予定よりずいぶん時間がかかった。
三人とも、それなりに楽しんだ。
***
魔王城の最上階。
大きな扉の前に、三人は立っていた。
オッサン「着いたな」
マスター「ああ」
おねーさん「着いたにゃ」
オッサン「結構面白かったな」
マスター「まだ終わってないぞ」
おねーさん「魔王がいるにゃ」
オッサン「ああ、そうだった」
マスター「何しに来たんだ」
扉を開けた。
広い玉座の間。
奥に、魔王がいた。
黒い鎧。
大きな角。
傍らには巨大な剣。
魔王「来たか。異世界の勇者たちよ」
オッサン「俺たちのこと知ってるの?」
魔王「当然だ。我が将たちを退け、ここまで辿り着いた者たちだ」
オッサン「将?」
マスター「途中にいた連中だろ」
オッサン「あれ、将だったの?」
おねーさん「説明してたにゃ」
オッサン「聞いてなかった」
マスター「お前は興味のある話しか聞かないからな」
魔王「……」
魔王は三人を見た。
魔王「なるほど。確かに力はあるようだ」
オッサン「そうなの?」
魔王「だが、私には勝てぬ」
オッサン「それはやってみないと分からないんじゃない?」
魔王「ならば試すか」
オッサン「その前に話くらいしてもいいだろ」
魔王「……よかろう」
魔王は玉座に座り直した。
魔王「ならば問おう。貴様ら、我が配下となれ」
三人は黙った。
魔王「さすれば――世界の半分を、貴様らにやろう」
オッサン「どこで半分にするの?」
魔王「……何?」
おねーさん「面積にゃ?」
マスター「人口かもしれん」
オッサン「国の数?」
おねーさん「海はどうするにゃ?」
オッサン「経済規模とか」
マスター「資源量もあるな」
魔王「……」
おねーさん「あと、三人で半分をもらったら、その半分を三人で分けるにゃ?」
魔王「待て」
オッサン「何?」
魔王「なぜ世界の半分を提示されて、最初に分割方法を聞く」
オッサン「だって、何をくれるのか分からないじゃん」
魔王「世界の半分だ!」
マスター「だから、その半分が分からない」
魔王「……」
オッサン「そもそもさ」
魔王「まだあるのか」
オッサン「今、世界って誰のもの?」
魔王「……」
おねーさん「魔王のものにゃ?」
魔王「まだ違う」
オッサン「じゃあ、くれないじゃん」
魔王「いずれ私のものになる!」
オッサン「世界征服したら?」
魔王「そうだ!」
オッサン「じゃあ今は持ってないんだ」
魔王「……」
おねーさん「成功報酬にゃ」
マスター「しかも成功するか分からない」
魔王「貴様ら、本当に勇者か?」
オッサン「王様にも聞かれた」
***
魔王は少し考えた。
魔王「ならば言い換えよう。私の世界征服に協力せよ。征服後、世界の半分の統治権を与える」
オッサン「なんで世界征服するの?」
魔王「私は魔王だからだ」
三人は黙った。
オッサン「それ理由?」
魔王「何?」
マスター「魔王だから世界征服する、では説明になってないな」
おねーさん「魔王という名前から行動を決めてるにゃ」
魔王「では教えてやろう」
魔王は立ち上がった。
魔王「この世界は、本来我ら魔族のものだった」
オッサン「いつ?」
魔王「遥か昔だ!」
オッサン「何年前?」
魔王「……」
おねーさん「今生きている人たちは、そのとき生きてたにゃ?」
魔王「当然、生きておらぬ!」
マスター「どの時点の領土を正当とするんだ」
魔王「人間どもが増え、我らを辺境へ追いやる前だ!」
オッサン「その前に魔族が誰かから取った土地はないの?」
魔王「……」
マスター「遡れば終わらんな」
魔王「とにかく、我らは奪われた土地を取り戻す!」
オッサン「だったら世界全部いらなくない?」
魔王「……」
おねーさん「目的が旧領の回復なら、世界征服は必要ないにゃ」
マスター「目的を超えてるな」
魔王「人間は危険なのだ!」
オッサン「どう危険なの?」
魔王「争い、殺し、土地を奪い、富を奪う!」
オッサン「魔族は?」
魔王「……する」
おねーさん「今も人間の土地に攻め込んでるにゃ」
魔王「これは戦争だ!」
オッサン「人間同士の戦争と何が違うの?」
魔王「……」
魔王はしばらく黙った。
魔王「結局、力ある者が勝つ。それだけのことだ」
オッサン「何に?」
魔王「戦いに決まっている!」
オッサン「戦いに勝ったら、世界征服は終わるの?」
魔王「敵を倒せば終わる!」
おねーさん「敵って誰にゃ?」
魔王「我に従わぬ者すべてだ!」
オッサン「従うって言って、従わなかったら?」
魔王「処罰する!」
マスター「誰が統治する」
魔王「我が配下だ!」
マスター「その配下が裏切ったら」
魔王「……」
おねーさん「征服した土地の食料はどうするにゃ?」
オッサン「税金は?」
マスター「道路は」
おねーさん「治安も必要にゃ」
魔王「……」
オッサン「世界征服って、戦争に勝ったら終わりじゃないんじゃない?」
魔王「……」
長い沈黙があった。
魔王「世界征服とは、そんなに面倒なのか」
オッサン「やったことないから知らない」
マスター「お前もないのか」
オッサン「ないよ」
おねーさん「私もないにゃ」
魔王「では、なぜ貴様らが世界征服について説明しているのだ」
オッサン「なんでだろ」
マスター「お前が始めたんだろ」
魔王「私か?」
おねーさん「たぶんにゃ」
***
かなり時間が経った。
いつの間にか、三人も座っていた。
魔王も座っていた。
魔王「つまり、貴様らは、私が何を目的として戦争をしているのかを決めろと言っているのか」
オッサン「俺たちが決めるんじゃないよ」
おねーさん「何をしたいのかは、自分で決めるにゃ」
マスター「俺たちでは決められん」
魔王は黙った。
長い沈黙だった。
魔王「……侵攻はやめる」
オッサン「本当に?」
魔王「ああ」
マスター「今後もか」
魔王「少なくとも、人間の王国への侵攻は停止する」
おねーさん「軍も引くにゃ?」
魔王「引かせる」
オッサン「じゃあ、俺たちがここに来た目的、だいたい終わったんじゃない?」
マスター「ああ」
おねーさん「王様が困ってた問題は解決したにゃ」
魔王「ならば帰れ」
オッサン「そうする」
三人は立ち上がった。
扉へ向かった。
オッサンが途中で止まった。
オッサン「でもさ」
魔王「まだ何かあるのか」
オッサン「お前、なんで魔王なの?」
魔王「……私は魔王だからだ」
オッサン「どうやって魔王になったの?」
魔王「先代魔王より位を継いだ」
マスター「世襲か」
魔王「そうだ」
おねーさん「魔王の仕事は何にゃ?」
魔王「魔族を治めることだ」
オッサン「じゃあ、魔族の王様じゃん」
魔王「それを魔王というのだ!」
オッサン「人間の王様は人王って言わないよ」
魔王「知らん!」
おねーさん「魔族を治めることと、人間を攻めることは別にゃ」
マスター「侵攻はやめたんだろ」
魔王「ああ」
オッサン「じゃあ、これから何するの?」
魔王「魔族を治める」
オッサン「普通の王様じゃん」
魔王「……」
おねーさん「魔王という名前である必要はあるのかにゃ?」
魔王「では、何と名乗ればいいのだ」
オッサン「知らないよ」
マスター「自分で決めろ」
おねーさん「自分の名前にゃ」
魔王は黙った。
長い沈黙だった。
魔王「……分かった」
三人は振り返った。
魔王「魔王を名乗るのをやめる」
オッサン「本当に?」
魔王「ああ」
おねーさん「じゃあ、もう魔王じゃないにゃ?」
魔王「そうなる」
マスター「本人がそう言うならな」
オッサン「じゃあさ」
マスター「なんだ」
オッサン「魔王、いなくなったじゃん」
おねーさん「いなくなったにゃ」
マスター「……まあ、そうなるな」
元魔王「待て」
オッサン「何?」
元魔王「それでよいのか?」
オッサン「何が?」
元魔王「貴様らは魔王を倒しに来たのであろう」
おねーさん「でも、もう魔王はいないにゃ」
マスター「対象が消えたな」
元魔王「私はここにいるぞ!」
オッサン「でも魔王じゃないんだろ?」
元魔王「……」
三人は再び扉へ向かった。
元魔王「待て!」
オッサン「まだ何?」
元魔王「私は……貴様らに負けたのか?」
オッサン「何をもって負け?」
元魔王「……」
マスター「戦ってはいないな」
おねーさん「でも世界征服はやめたにゃ」
元魔王「では、負けたのか?」
オッサン「だから、それを聞いてるんだよ」
マスター「お前は今も魔族を治めている」
おねーさん「お城も残ってるにゃ」
オッサン「でも侵攻はやめた」
マスター「世界征服もな」
おねーさん「魔王でいることもやめたにゃ」
元魔王「では、私は負けていないのか?」
オッサン「それも分からない」
元魔王「なぜだ!」
おねーさん「勝敗条件を決めてなかったにゃ」
マスター「そもそも戦ってないからな」
オッサン「じゃあね」
マスター「ああ」
おねーさん「さよならにゃ」
三人は魔王城を後にした。
城には、魔族を治める王だけが残った。
魔王はいなくなった。
勝者も、いなかった。
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