世界征服編 魔王の野望
小さなバー。名前は《N+2》。
オッサン「なあ」
マスター「なんだ」
オッサン「この前、魔王を元魔王にしただろ」
マスター「ああ」
おねーさん「したにゃ」
オッサン「あいつ、本当は何したかったんだ?」
マスター「知らん」
おねーさん「聞いてないにゃ」
オッサン「だよな」
マスター「ああ」
オッサン「侵攻をやめさせて、魔王を辞めさせた。それで王様は魔王討伐成功ってことにした」
おねーさん「『よい!』って言ってたにゃ」
オッサン「でも、俺たち、魔王が何を目指してたのか確認してないんだよ」
マスター「侵攻はしていた」
オッサン「それは行動だろ。目的じゃない」
おねーさん「KAIにゃ」
オッサン「そう。他人のKAIを見て、勝手にKGIまで決めるなよ」
マスター「世界征服じゃないのか」
オッサン「ほら、それだよ」
マスター「何がだ」
オッサン「なんで魔王だと世界征服したいことになるんだよ」
おねーさん「魔王だからにゃ?」
オッサン「雑だなあ」
マスター「じゃあ、世界征服じゃなかったのか」
オッサン「知らん」
おねーさん「聞いてないにゃ」
少し間があいた。
オッサン「でも、世界征服って定番だよな」
マスター「何の定番だ」
オッサン「こっちの世界の冒険活劇だよ。悪の秘密結社が世界征服を企む」
おねーさん「冒険活劇って、いつの時代の表現にゃ」
オッサン「いいんだよ。〇〇ライダーとか、ゼロゼロ何とか、とか」
マスター「何も出てこないのか」
オッサン「出てくるよ。いっぱいあるんだけど、今、固有名詞が出てこない」
おねーさん「歳にゃ」
オッサン「違う」
マスター「で、秘密結社が世界征服して、どうするんだ」
オッサン「そう」
おねーさん「征服した世界で何をするにゃ?」
オッサン「それ」
マスター「世界征服が目的なら、征服した時点で仕事は終わりだな」
オッサン「いや、そうだけど」
おねーさん「解散するにゃ?」
オッサン「しないだろ」
マスター「じゃあ統治するのか」
オッサン「するんじゃないか?」
マスター「何をする」
オッサン「だから、世界を支配する」
マスター「具体的に」
オッサン「……税金を取る」
おねーさん「税務署にゃ」
オッサン「違う」
マスター「世界中から税金を取ってどうする」
オッサン「俺のところに集める」
おねーさん「お金が欲しかったにゃ?」
オッサン「悪の組織だからな。豪邸建てたり、うまいもの食ったり」
マスター「世界征服する前にできるだろ」
オッサン「できるな」
おねーさん「世界征服の費用で豪邸が何軒も建ちそうにゃ」
オッサン「じゃあ金じゃない」
マスター「権力か」
オッサン「それだ。世界中の人間を俺の命令に従わせる」
おねーさん「何を命令するにゃ?」
オッサン「俺に従え」
マスター「従って何をする」
オッサン「だから、俺の命令を聞く」
マスター「何を命令する」
オッサン「……」
おねーさん「一周したにゃ」
オッサン「待て。世界を俺の思い通りにするんだよ」
マスター「どういう状態が思い通りなんだ」
オッサン「戦争をなくす」
おねーさん「善くなってきたにゃ」
オッサン「犯罪もなくす」
マスター「さらに善くなったな」
オッサン「貧困もなくす」
おねーさん「世界を救い始めたにゃ」
オッサン「違う。俺は今、悪の秘密結社なんだよ」
マスター「目的の方がそう見えない」
オッサン「じゃあ、各国を俺に従わせる。国は残していい。でも勝手に戦争するな。国家間で問題が起きたら、共通のルールで解決する」
おねーさん「かなりまともになったにゃ」
オッサン「その一番上に俺がいる」
マスター「そこが余計だな」
オッサン「そこを取ったら世界征服じゃなくなるだろ」
おねーさん「国を残して、国家間の争いを共通の法的な枠組みで抑えるにゃ」
オッサン「そう」
マスター「かなり近いな」
オッサン「何に」
おねーさん「カントにゃ」
オッサン「入れるな」
マスター「お前から近づいていったんだぞ」
オッサン「出禁だ」
おねーさん「悪の秘密結社から『永遠平和のために』まで来たにゃ」
オッサン「戻ろう。悪の組織に戻ろう」
マスター「どこまで戻る」
オッサン「世界征服」
マスター「だから、何のためにする」
オッサン「それを考えてるんだよ」
おねーさん「お金ではなかったにゃ」
オッサン「うん」
マスター「平和でもない」
オッサン「カントになるからな」
おねーさん「世界を思い通りにしたい、は?」
オッサン「それかな」
マスター「なら、全部を直接支配する必要はないな」
オッサン「どういうこと?」
マスター「各国政府はそのままでいい。法律も行政も好きにやらせればいい」
おねーさん「オッサンが気に入らないときだけ止めるにゃ?」
マスター「そういうことだ」
オッサン「なるほど」
おねーさん「世界中のことを全部自分で決めなくてもいいにゃ」
オッサン「最終決定権だけ俺が持つ」
マスター「それなら世界征服らしくなったな」
オッサン「つまり、俺の意思に反して世界の最終決定をできる奴がいなくなればいい」
おねーさん「それが世界征服のKGIにゃ?」
オッサン「たぶん」
マスター「で、それを達成して何をする」
オッサン「……」
おねーさん「また戻ったにゃ」
オッサン「世界征服って、目的じゃないのか?」
マスター「知らん」
オッサン「だって悪の秘密結社は世界征服を目指すだろ」
おねーさん「そういう設定にゃ」
オッサン「設定じゃなくて、世界征服したい理由だよ」
マスター「金なら、もっと安い方法がある」
おねーさん「平和なら、世界征服じゃなくてもいいにゃ」
マスター「特定の思想を広めたいなら、全員が自発的に受け入れても達成できる」
オッサン「じゃあ権力そのものが欲しい」
おねーさん「権力を使って何をするにゃ?」
オッサン「……権力を維持する」
マスター「手段を維持することが目的になったな」
オッサン「なんか変だな」
おねーさん「世界征服の上に、もう一つ目的が必要そうにゃ」
オッサン「世界征服がKGIじゃない?」
マスター「上位目標に対するKAIかもしれんな」
オッサン「じゃあ、その上位目標は?」
マスター「魔王に聞け」
オッサン「だから、もう元魔王にしちゃったんだよ」
おねーさん「聞いてから辞めさせればよかったにゃ」
オッサン「そうなんだよ」
しばらく三人とも黙った。
オッサン「俺たち、あいつについて何も分かってなかったんだな」
マスター「侵攻していたことは分かっている」
オッサン「KAIだけじゃねえか」
おねーさん「他人のKAIを勝手にKGIにするな、にゃ」
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