世界征服編 ネコの野望
オッサン「だから仮定する。魔王のKGIは世界征服だった」
おねーさん「今回は固定するにゃ」
オッサン「そう。で、軍事侵攻はKAI。ここは分ける」
マスター「それで?」
オッサン「軍事侵攻をやめたら、世界征服できないのか?」
マスター「別の手段があればできる」
オッサン「だよな」
少し考えた。
オッサン「じゃあ、おねーさんが魔王だったら、どうやって世界征服する?」
おねーさん「しないにゃ」
オッサン「思考実験なんだからやれよ」
おねーさん「戦争は嫌にゃ」
オッサン「戦争しなくていい。そこを考えてるんだから」
マスター「その前に、何をもって世界征服とするか決めろ」
オッサン「あ」
おねーさん「またKAIから考えてたにゃ」
オッサン「危ないな」
***
オッサン「世界征服だから、世界を支配したら達成」
マスター「それでは『支配』が残る」
オッサン「じゃあ、支配って何だ?」
おねーさん「領土を取ることではないにゃ?」
オッサン「領土を取るのも手段だろ。取った領土で誰も言うことを聞かなかったら、支配した感じがしない」
マスター「命令することでもないな。命令していない時間も支配関係は続く」
オッサン「だったら結果側で考えよう。相手の意思決定を継続的に左右できること」
おねーさん「友達でも左右するにゃ」
オッサン「じゃあ、自分にとって望ましい方向に」
マスター「相手の意思決定を継続的に左右し、自分にとって望ましい行動を取らせられる状態」
オッサン「それでいこう」
おねーさん「大雑把にゃ」
オッサン「思考実験なんだからいいんだよ。これが世界規模で成立すれば、世界征服」
マスター「軍隊も領土も定義から消えたな」
オッサン「全部、支配状態を作るための手段だったんだ」
***
オッサン「よし。改めて聞く。おねーさんが魔王ならどうする?」
おねーさん「ごはん欲しいにゃ」
オッサン「世界征服の話をしてるんだよ」
マスター「出すだろ、お前」
オッサン「出すよ」
沈黙した。
オッサン「……あれ?」
おねーさん「何にゃ?」
オッサン「今、俺の意思決定、お前に左右されたよな」
マスター「ああ」
オッサン「しかも、お前にとって望ましい方向に」
おねーさん「ごはん欲しいにゃ」
オッサン「でも一回じゃダメだ。継続的じゃない」
マスター「なら、お前のネコ飼いとしての日常を考えてみろ」
オッサン「……考えたくなくなってきた」
おねーさん「考えるにゃ」
オッサン「餌を買う。水を換える。トイレを掃除する。病院に連れていく。留守にするときはどうするか考える。危ないものは片付ける。爪研ぎを置く」
マスター「十分継続的だな」
オッサン「しかも、俺が自分でやってる」
おねーさん「オッサンの飼いネコさんは、どれもオッサンに頼んだりしてないにゃ」
オッサン「そうなんだよ。命令も強制もされてない」
マスター「自発的であっても、さっきの定義からは外れない」
オッサン「……ネコ、俺を支配してないか?」
おねーさん「してないにゃ」
オッサン「してるつもりがないだけだろ」
マスター「待て。それならイヌも同じだ」
オッサン「あ」
***
オッサン「確かに。イヌがいれば、散歩の時間を作る。旅行も変わる。餌も医療も必要になる」
マスター「人間の意思決定を継続的に左右している」
オッサン「同じじゃん」
おねーさん「イヌも世界征服にゃ?」
オッサン「……いや、ちょっと違うな」
マスター「何が」
オッサン「イヌは人間のパートナーなんだよ」
おねーさん「どう違うにゃ?」
オッサン「イヌは昔から人間と一緒に何かしてきた。狩猟、見張り、牧畜。今でも人間を助ける仕事をするイヌがいる」
マスター「家庭犬でも、人間と行動を共にすることは多い」
オッサン「そのために人間もイヌに合わせるし、イヌにも人間に合わせてもらう」
おねーさん「躾にゃ?」
オッサン「そう。でも、お手とかお座りじゃない。一緒に暮らすための方。排泄する場所とか、散歩での振る舞いとか、人や他のイヌとの接し方とか」
マスター「人間社会で共同生活できるよう、イヌの側も行動を調整する」
オッサン「人間も変わる。イヌも変わる。だからパートナーなんだ」
おねーさん「お互いに合わせるにゃ」
オッサン「そう。じゃあネコは?」
マスター「ネコにもトイレは覚えさせるぞ」
オッサン「でも、人間の排泄ルールに合わせさせてるわけじゃない。ネコが砂で排泄するから、人間が家の中に砂を置いてる」
おねーさん「トイレを買うにゃ」
オッサン「爪研ぎもそうだ。爪を研ぐなと教えるより、研いでいいものを人間が用意する」
マスター「キャットタワーも、登る行動を禁止するんじゃなく、登れる環境を追加する」
オッサン「人間の家の方がネコ仕様になっていくんだよ」
おねーさん「快適にゃ」
オッサン「お前がな」
マスター「イヌとの共同生活より、環境側で吸収する部分が目立つわけか」
オッサン「しかもネコに仕事を要求しない。人間社会のために何かしてくれとも言わない」
おねーさん「何もしないにゃ」
オッサン「なのに人間が自分の時間と金を使って、環境まで変える」
少し沈黙した。
オッサン「ネコ、強くない?」
マスター「何がだ」
オッサン「支配者として」
おねーさん「何もしてないにゃ」
オッサン「だからだよ」
***
マスター「ただし、それで世界征服とは言えないぞ」
オッサン「全人類じゃないからな」
マスター「ああ」
オッサン「でも、方法は分かった」
おねーさん「何のにゃ?」
オッサン「世界征服」
マスター「どうする」
オッサン「世界中から愛されればいい」
マスター「簡単に言うな」
オッサン「軍隊で従わせる必要なんかなかったんだよ。愛されれば、相手は自分から、その存在を意思決定の中に入れる」
おねーさん「好きだからにゃ」
オッサン「時間を使う。金を使う。予定を変える。場合によっては、自分が暮らす環境まで変える」
マスター「強制する必要がない」
オッサン「監視もいらない。命令もいらない。本人が自分で選ぶ」
おねーさん「本人も嬉しいにゃ」
オッサン「そこが一番強い。支配する側だけじゃなく、される側にとっても望ましい」
マスター「ずいぶん変わった支配だな」
オッサン「でも、最初に決めた定義には合ってる」
マスター「ああ」
オッサン「愛されれば、支配できる」
おねーさん「平和にゃ」
オッサン「魔王は軍隊なんか作ってる場合じゃなかったんだよ。世界中から愛されればよかった」
マスター「それができればな」
オッサン「ネコはかなり成功してるぞ」
おねーさん「そうにゃ?」
オッサン「世界中で人間がネコのために時間を使って、金を使って、生活まで変えてる」
マスター「お前の定義なら、かなり広い範囲を支配してることになるな」
オッサン「魔王よりずっと先にいる」
おねーさん「じゃあ、世界征服は目的にしなくてもいいにゃ」
オッサン「なんで?」
おねーさん「愛されることを目的にすれば、支配は結果としてついてくるにゃ」
オッサン「……KGIとKAIがひっくり返った」
マスター「世界征服をKGIにしたから、軍事侵攻がKAIになった」
オッサン「ああ」
おねーさん「でも、愛されることをKGIにしたら、世界征服の方が結果になるにゃ」
少し沈黙した。
オッサン「魔王より怖いな、お前」
おねーさん「失礼にゃ」
オッサン「褒めてる」
おねーさん「じゃあ許すにゃ」
マスター「もう支配されてるな」
オッサン「……あ」
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