ファンタジー編 第一話 召喚
小さなバー。名前は《N+2》。
オッサン「なあ、異世界転生ってあるだろ」
マスター「ああ」
おねーさん「あるにゃ」
オッサン「あれってさ――」
床が光った。
***
気がつくと、三人は巨大な広間に立っていた。
高い天井。
石造りの柱。
正面には玉座。
王冠をかぶった老人が、三人を見ていた。
その両脇には、大臣らしい男と、長い杖を持った魔術師が立っている。
オッサン「……どこ?」
マスター「知らん」
おねーさん「バーじゃないにゃ」
王「おお!」
王が立ち上がった。
王「成功した! 勇者召喚は成功したぞ!」
オッサン「勇者?」
王「そうじゃ。古き秘術により、異世界から魔王を倒す力を持つ勇者を召喚した!」
三人は顔を見合わせた。
オッサン「ちょっと待って」
王「なんじゃ」
オッサン「俺たちが魔王を倒せるって、どうして分かるの?」
王「勇者だからじゃ」
オッサン「勇者だから魔王を倒せるの?」
王「そうじゃ」
オッサン「それとも、魔王を倒せる人を選んで呼んだの?」
王「……」
マスター「違う話だな」
おねーさん「選抜なのか、呼ばれた人を勇者と呼んでるのかにゃ」
王は宮廷魔術師を見た。
宮廷魔術師「古文書には、『異世界から勇者を召喚する』と」
オッサン「勇者って何?」
宮廷魔術師「魔王を倒す者です」
オッサン「じゃあ、俺たちが勇者かどうか分かるの、魔王を倒した後じゃん」
宮廷魔術師「……」
王「細かいことはよい!」
マスター「よくはないな」
王「とにかく、我が国は危機に瀕しておる!」
王の表情が変わった。
王「魔王軍が北方より侵攻している。すでに三つの砦が落ちた。二つの町を放棄し、民は避難しておる」
三人は黙った。
王「このままでは王都まで攻め込まれる。多くの民が死ぬ」
オッサン「それは困るな」
マスター「ああ」
おねーさん「困るにゃ」
王「だから頼む。魔王を倒してくれ」
オッサン「倒すって何?」
王「……何?」
オッサン「魔王を倒すって、何をすれば終わり?」
王「魔王を討ち取るのじゃ!」
オッサン「魔王を殺せばいいの?」
王「そうじゃ!」
オッサン「魔王を殺しても、魔王軍が侵攻を続けたら?」
王「……」
マスター「目的は魔王を殺すことか、侵攻を止めることか」
おねーさん「それぞれ違うことにゃ」
王「もちろん、侵攻を止めることじゃ!」
オッサン「じゃあ、魔王が生きてても侵攻が止まればいい?」
王「……」
大臣「魔王軍を軍事的に無力化する必要があります」
マスター「どこまで」
大臣「どこまで、とは」
マスター「現在の侵攻能力を失えばいいのか。再侵攻できない状態まで必要なのか」
おねーさん「来年また攻めてきたら、今回の討伐は成功だったのかにゃ?」
大臣「……」
オッサン「あと、魔王を倒した後に別の魔王が出てきたら?」
王「そんなことまで分かるか!」
オッサン「でも、終了条件を決めないと、終わったかどうか分からないよ」
大臣「では……魔王軍による侵攻を恒久的に停止させる」
オッサン「恒久的っていつまで?」
大臣「……永久に」
マスター「この国がなくなっても侵攻は起きなくなるな」
大臣「それは成功ではない!」
おねーさん「じゃあ、王国が存続することも条件に入れる必要があるにゃ」
大臣「……」
オッサン「国土は?」
大臣「守る!」
オッサン「全部?」
大臣「……可能な限り」
マスター「可能な限り、では達成判定できないな」
おねーさん「国民の生命は?」
大臣「当然守る!」
オッサン「一人も死なせない?」
大臣「それは……」
マスター「財産は」
大臣「……」
おねーさん「魔王軍以外の被害は対象外にゃ?」
オッサン「盗賊に襲われたら?」
王「なぜ盗賊の話になる!」
オッサン「国民の生命と財産を守るのが目的なら入るじゃん」
王「魔王の話をしておるのじゃ!」
マスター「なら目的を魔王に限定する理由が必要だな」
王「……」
長い沈黙があった。
オッサンが小声で言った。
オッサン「これ、決まらないぞ」
マスター「ああ」
おねーさん「呼んだ人たちも、何をもって解決とするか決めてなかったにゃ」
オッサン「帰れるのかな」
三人は宮廷魔術師を見た。
宮廷魔術師が目を逸らした。
オッサン「嫌な予感がする」
マスター「するな」
おねーさん「するにゃ」
また沈黙した。
オッサンは広間の壁を見た。
何本もの剣が飾られていた。
オッサン「なあ」
マスター「なんだ」
オッサン「剣って、習えるのかな」
マスター「……」
おねーさん「魔法もあるにゃ」
オッサン「あ」
三人は宮廷魔術師の杖を見た。
おねーさん「魔法、ちょっとやってみたいにゃ」
マスター「剣は面白そうだな」
オッサン「だよな」
王「……勇者たちよ?」
三人は顔を見合わせた。
オッサン「まあいいか」
マスター「ああ」
おねーさん「はいにゃ」
王「何がじゃ?」
オッサン「魔王討伐、引き受けるよ」
王「おお!」
大臣「ありがとうございます!」
宮廷魔術師「さすが勇者!」
王「覚悟を決めてくれたか!」
オッサン「いや、俺たち戦ったことないけど」
王「……何?」
マスター「剣も使ったことない」
おねーさん「魔法も使えないにゃ」
沈黙した。
王「だ、大丈夫じゃ! 我が国最高の剣士たちに師事させよう!」
オッサン「本当?」
王「もちろんじゃ!」
宮廷魔術師「魔法については、我ら宮廷魔術師が指導いたします」
おねーさん「本当にゃ?」
宮廷魔術師「はい!」
オッサン「やった」
王「……やった?」
マスター「気にするな」
王と大臣と魔術師は、ようやく安堵した。
三人も、少し嬉しそうだった。
理由は、それぞれ違った。
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